【タイ⑥】チェンマイで危うく沈没しそうになった話 魔法の言葉”マンペイライ”
沈没とは、長期間の海外個人旅行をしているバックパッカーなどが、旅行の本来の目的である観光を中断し、一つの街への滞在を目的としてしまうこと(Wikipediaから引用)
“沈没”とは主に長期旅行者がよく使う言葉であり、これまでに世界一周旅行者と話した際にも「メキシコで沈没しかけた」だとか「男2人で旅してたんだけど連れがネパールで沈没しちゃって」など”沈没”というワードを何回か耳にした。
沈没ってそんなに簡単に起こりうるものなんだなあと、なんとなく自分には起こるはずがないだろうとどこか他人事のような感覚で聞いていた。
しかしそんな私がタイの古都チェンマイで危うく沈没しかけた。いやいやまだ旅行出発して2週間だよ、早くない?と自分でも思うが本当のことだから仕方ない。
チェンマイはランタン祭りに参加するために訪れたため、当初はそんなことになるなんて思ってもみなかった。しかしチェンマイの雰囲気が好きで、チェンマイで出会った人々も大好きで「ああこの後取ってある航空券を全部捨てて、このままここにいてしまおうかな」と本気で考えた。
そう思うようになったのは、チェンマイで、ある家族と出会ったことがきっかけであった。
カフェ兼バーのような店でパソコンを操作していると1人の日本人男性と目があった。以下Aさんとしよう。
Aさんは元々生活の拠点は日本だったが、数年前から拠点をタイに移して家族みんなでチェンマイで暮らしているとのこと。お嫁さんはタイ人。
そしてその隣で声高らかに笑っている50代から60代くらいの女性がいる。その女性はそのAさんのお義母さん。つまりお嫁さんのお母さん。
「この人は毎日こうだから。夜遅くまでビールいっぱい飲んで楽しんでるの。幸せそうだよね。」とAさんが言う。
本当に楽しそう。聞くところによるとこのお母さん、昔は看護師だったが、今はいくつかの自営業を経営しながら自身でかせぎ、財を成しているという。
毎日飲んでいるのに、仕事もちゃんとこなしてたくさんお金を稼いでいる。しかもみんなから慕われているなんてめちゃめちゃかっこいい。
にっこにこのキラキラ笑顔でビール大瓶を何本も飲みまくっている。さすが微笑みの国タイ…そんなことを考えながらこの一家の人達と話していたら、いつのまにか一緒にビールを飲んでいた。家族とその友人を含めて人数は10人ほどだったと思う。
わたしが数日後ミャンマーに行く予定だと伝えると「ミャンマーはタイに比べてかなり治安が悪い地域もあるから気をつけるんだよ」「ミャンマーでこんな危険な事件があったと聞いたよ」と心配してみんな何回も言葉をかけてくれた。
それだけにとどまらず、ビールをどんどん開けてくれるし、ご飯もお菓子もご馳走してくれた。最後には祭りで川に流す灯篭もプレゼントしてくれる始末。お代を差し出そうとするが受け取ってくれないため、感謝の意を伝えると「Never mind! Never mind!」と満面の笑みでお母さんが言ってくれる。Aさんも「お義母さんが気にすんなって言ってるんだから悪いなんて思わなくていいよ」と言う。みんな優しい。
折角タイ在住の人に会えたのだから、タイのことについて色々Aさんに聞いてみた。すると興味深い話が聞けた。
「タイは雨季と乾季はあるけど日本のように四季が別れていない。日本人は季節に合わせて行動するから、非常に仕事効率が良いんだよね。一方タイは気温もずっと高くて気候の変化が少ないから、タイ人は全てのことにメリハリが無くなりがちで仕事効率もイマイチなんだよね。日本みたいな災害もそう滅多に起こらないし、物事をよくしていこうっていう心がけが日本人より少ないってこともあるかもしれないね。でも一方で人の間違いや失敗には非常に寛容。そこがタイの良さだと思っているよ。」と。
なるほど。確かにそうかもしれない。私はバンコクで3回もバスを乗り間違えたが、その度に乗客やスタッフみんなで助けてくれて、間違ったんだからバス代は払わなくて良いと毎回言われた。
そしてこれまでタイで過ごしてきた中で「マンペイライ」という言葉をたくさん耳にした。マンペイライとは「大丈夫、気にしない、問題ない、仕方ない」という幅広い意味を指す言葉らしい。
時間に遅れてもマンペイライ。営業しているはずのお店が休業していてもマンペイライ。軽い事故があっても重い怪我をしなければマンペイライ。
基本的に少々のことであれば悪いことも嫌なこともマンペイライで済ませる文化だそうなのだ。つまるところ自分にも他人にも寛容なのだという。
なんだかこれをAさんから聞いて、日本の文化とは対極だなあと何となく思った。日本人は我慢や耐え忍ぶことによる「大丈夫」は得意だが、それはマンペイライ的なものではない。そして自分にも他人にも厳しい人が多いような気がする。もちろんそれは日本の良さでもあるのだが、私はどうしてもマンペイライ文化の方に惹かれてしまう。
その日から、結局チェンマイを離れる日まで宴会の日々が続いた。
チェンマイにいる間、タイビールの大瓶20本以上は飲んだと思うが、お代は結局最後まで受け取ってくれず「Never mind(気にしないで)」の一言で済まされてしまった。見ず知らずの旅人を歓迎し、毎日飲みの席に招いてくれるなんてなんたるあたたかさだろう。
ランタン祭りこそ参加したものの、実はチェンマイで観光地は1つも行っていない。当初は色々な場所へ行く予定だったが、チェンマイの人達と一緒に過ごす時間が楽しすぎて観光どころではなくなってしまった。
その家族だけでなく、その一家が経営している会社のスタッフや友人など、本当にたくさんの人と関わらせてもらったし、みんなから数え切れないほどタイのおもしろ話を聞いた。お祭り期間中だったこともあり一緒にランタンを上げたり、灯篭流しをしたりもした。
チェンマイが好きすぎて沈没した日本人にも出会った。チェンマイの魅力を問うと「バンコクほど都会じゃないけど、生活に困らない程度に便利で、のんびりしている雰囲気。しばらくいてみたらわかるから、とりあえずミャンマー行きのバスキャンセルすれば?」と言うではないか。この土地には人を引き止める魔力でもあるのだろうか、おそるべしチェンマイである。
しかしそんな楽しい時間はあっという間に過ぎていき、ついにチェンマイを離れる時が訪れてしまった。この日も結局朝6時までみんなで飲んでいた。朝8時30分のバスに乗らなきゃいけないんだけどこんなに飲んで大丈夫かな…という考えが飲んでる最中何度か頭をよぎったが、ここはタイ式にマンペイライで済ますことにした。
「あなたと離れるのが寂しい…」「いつチェンマイに返ってくるの?来週?1ヶ月後?」「本当に行っちゃうの?」「もうミャンマーなんか行かずにずっとここにいてほしい!毎日こうやって楽しく過ごしましょうよ!」
最終日はこのような悪魔のささやきのオンパレード。お母さんと何度も抱擁をかわし別れを惜しんだ。
チェンマイを離れるバスに乗らずここにいてしまおうと何回考えたかわからないし、バス会社にキャンセルの電話までしようとした。しかしこのままでは駄目だと踏みとどまった。私にはやりたいことがいっぱいある。一時の感情でそれを捨てることは間違っていると自分に言い聞かせた。
最後別れる際、お腹が空いたら食べるようにとお弁当を持たせてくれた。そして「またいつでも戻ってきてね、あなたは私の家族よ。」と言うお母さん。やだ。泣けてしまうではないか。
「あなたは私のタイのお母さんみたいな存在。将来あなたみたいな優しい女性になりたい。」と伝えると、お義母さんも目がうるうるさせて私の頰にキスをしてくれた。本当に可愛くて強くて素敵な人だった。
ちなみに、このお母さんも私も英語が堪能ではない。宴会で知り合った人達もタイ語しか話せない人が大多数であった。
Google翻訳やジェスチャーを使いながら会話をしていたが物凄く楽しかったし、言語が通じなくてもこんなに人って仲良くなれるんだなあと感動した。チェンマイを離れた今でも頻繁にメッセージをくれる人もいる。
この家族から受けたおもてなしはこれからも絶対に忘れないし、たくさん素敵な出会いがあったこの地にいつかまた戻ってきたい。
そしてこれから旅行で少しアンラッキーなことがあっても、魔法の言葉”マンペイライ”で何でも乗り越えていければいいなと思っている。
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